2019年8月13日火曜日

北アルプス(立山連峰)・剱岳(難易度:★★★★★)

誰にでも”いつかは成し遂げたい”という想いを一つ二つは持っているものだと思うのですが、自分にとって登山を嗜み始めてから夢見ていた、踏んでみたいと思い続けていた憧れの一座がありました。剱岳です。

剱岳はその名が示す通り縦に鋭い岩峰であり、風雪にさらされて女性的で横に滑らかな稜線を有する周りの山々とは一線を画す山容です。一般ルートを辿るだけでも付け焼刃の体力、技術、装備で挑もうものなら非常に大きな対価を支払わなければならないリスクを秘めているものの、逆にそれらを兼ね備え、天候の様な運の要素すら味方に付けることが出来たのであれば、最高の体験を約束してくれるステージと言えます。

今回は剱岳に登頂した後、立山(別山~真砂岳~大汝山~雄山)を縦走

歩き始めるスタート地点は富山県の南東に位置する室堂なのですが、東京からだとアクセスが少々複雑。足となる交通機関の組み合わせ方は幾つかあったのですが、一般的な夜行バスで新宿から富山駅にアクセスした後、富山電鉄と立山黒部アルペンルートを使って現地に向かう事としました。

もう夜行バスでも問題なく寝れるような身体になってしまったな…

プランの組み方として、早朝発の新幹線という手も考えられたのですが、スケジュール上どうしても室堂に到着してから歩き始める前に1~2h程度は高度順応の時間を確保したいと考えていた関係上ボツとしました。


~DAY1~

7:10 富山駅

予報通り良く晴れてくれています。1週間ほど前から日本列島の南を台風が2つ3つウロウロしていたため、今年も流れてしまうのか・・・と大分気を揉むことと相成りました。

出発前はなんと台風3つ予報…からの全弾回避!

台風の進路一つで山行プランが潰えてしまう状況だったのですが、結果的には大当たりの様ですね。

電鉄富山駅はJR富山駅から歩いて1~2分程度

朝食を適当に済ませた後は電鉄富山駅から立山駅まで列車旅。

ノスタルジック感溢れる駅舎と車体

面白いな、と思ったのは路線上に無人駅が多いためなのでしょうが、車両内部にバスの様な運賃箱が設置されていた点や、東京や大阪近郊で走っていた昔懐かしい車両が富山電鉄として第二の人生を送っていた点でしょう。

京阪電鉄のテレビカーの他にも、東急電鉄、西武鉄道のレッドアロー号が。

立山駅に到着した後は立山黒部アルペンルート。

https://www.alpen-route.com/map_navi/

インターネットで予約していたチケットを受け取り、ケーブルカーの出発時間までひたすら待ち。時間に余裕を持ちすぎたかな、という感じがあったものの事前に対処できる焦りという悪要素を孕むより良いだろうと思いながらケーブルカーに乗車。

ケーブルカーの乗車時間は数分程度

立山駅から美女平までケーブルカーで移動するのですが、さすが一級の観光名所だけあって乗客数が凄いです。海外から旅行されていた方も大分多くいた模様。

美女平駅から室堂まではバス移動

乗客が流れるようにバス車内に吸い込まれてゆきます。立山黒部アルペンルートの多くの乗り継ぎは大体この様な流れ作業的な感じで、駅員スタッフも客捌きが小気味良かった。

原色で彩られた車窓のレベルが異様に高い(笑)

青空と緑と雲と岩のコントラストが引き立てあっており、車窓の景色としては最早絶品と言って良いレベル。剱のご神体も少し顔を覗かせていましたね。

11:40 室堂

現地に到着してからは登山届の提出に加えてこれからの天候のチェック、及びその他情報収集。幸い状況が大きく崩れる様子も無い様なので、昼食を取った後は暫く一級品の山岳観光地の眺望に圧倒されつつの高度順応。

13:10 スタート

本日は雷鳥沢野営場、剣御前を経由して剱澤小屋までの移動となるのですが、前方の山を一端登って更に降りきった所が目的地となります。

雷鳥沢キャンプ場にはテントがギッシリ

眼前の山体に刻まれているルート(雷鳥坂)に唸ります。1日目ということで軽いトレッキングというイメージを持っていましたが、しっかり登らされるようです。

13:40 雷鳥沢野営場

物凄い数のテントが張られていました。モンベルのステラリッジテント率高し。
少しだけ休憩した後はさっそく登り始めます。


夏登山はこうでなければ・・・!と、思い描いたような素晴らしい眺望と、見え続けているのに一向に近づく感じのない稜線上の剣御前小屋。谷川岳の西黒尾根を思い出しつつも無理せずゆっくり進みます。

15:29 カントリーマアムと剣御前小屋

なかなか到着しないので一端休憩を取っていたのですが、ふと上を仰ぐと小屋らしき建物が。”もうちょっとかな…”と思いながら歩いていると近づかないのが目的地というものですが、逆に”まだまだ歩かされるのだろう”と下を向いていると実はそんなことも無かったりするのも目的地。

15:30 剣御前小屋

ここで剱のご神体と正式にご対面。初めて見るその厳つい山容に思わず声が出てしまう。
そしてここまで来たら後は道なりに下るだけ。剣御前小屋から本日の目的地である剱澤小屋も目視で確認出来ており、1時間弱の行程。

16:30 剱澤小屋

小屋泊する際の最大のポイントとなる寝床のスペースですが、今回はなんと畳1畳分を確保!寝返りが打てます(笑)
幸先が良いのでシャワー、夕食、翌日のパッキングを完了させた後は19:00あたりで就寝。翌日は2:30起床予定。

~DAY2

3:20 朝食と身支度を終えた後にスタート

とにかく星が綺麗。気温は10度ちょっとで思っていたよりも寒くなかったです。
装備としては、アンダー、シャツ、ミドルに一応適当なフリースという感じでしたが、歩き始めて体に火が入るとフリースはただのお荷物に…。寒さへの耐性をもう少し上げることが出来れば余計な荷物が減るんですが。

さあ、楽しい1日の始まりです!

3:50 剱山荘

このチェックポイントにて小休止した後は、本格的な登り。ベストな天候、体調に加えて程良い緊張感。

4:30 一服剱

ここまでは鎖も簡単な1、2本程度で特に問題は特になし。それよりも前剱に身を捩るようにゆらゆらと登って行く先行者のヘッデンが凄く幻想的。神楽だった。

振り返ると後続の蛍のような光。皆、楽しさと真剣さと僅かな悲壮感を混ぜたような表情。

ご来光と共に鹿島槍ヶ岳のシルエット

この後は少し下った後に前剱に向けた登りとなります。

光が差し込んでくると歩き始めた剱澤小屋が視認出来ました


この様な感じの番号の降られた鎖場をいくつか超えて行きますが、大きな問題はなく、適度な負荷と気持ちの良い眺望を歩いて行きます。

5:20 前剱頂上

一服剱から見上げた時は圧倒された前剱も、夢中になって登っているとあっという間でした。
ここからはルート上のリスクが上がることが分かっていたため、ヘッデンを外してハーネスを装備。セルフビレーで主にトラバースの鎖場からの滑落を防止するのが目的です。

こんな感じ

剱本体へ歩き始める頃には完全に陽の光で回りが見渡せるようになったのですが、登山者が本当に多いです。

鉄の一本橋とトラバース

WEB上の至る所に出てくるこの鉄橋とトラバースも目の前で眺めてみると意外にスケールが小さく、鎖がしっかりしているので実際歩いてみても然程危険な感じはしませんでした。念のために確保しつつ慎重に進みましたが、周囲が十分に明るく先行者が見本を見せてくれるので、「危険な道にトライ!」というより、寧ろ「アスレチックにチャレンジ!」という感じのほうが強い様に思えます。しっかりした3点支持で進めば道的には問題なしです。個人的には以前歩いた大月の岩殿山のトラバースを少し思い出す。

本日も快晴

早朝に出発したこともあり、何十分もマズいところで足止め…みたいなことにはなりませんでした。山スケは先手必勝でありますよ。

6:40 7番鎖の平蔵の頭と8番鎖の平蔵のコル

ここも特に問題なく進むことが出来ました。先行者の動きもありどう進めばよいかが一目瞭然であるため、不安になる箇所は皆無。もし一人で薄暗い中進むこととなったら状況は違うのでしょうが…。

そして登りの難所、兼核心部の一つである9番鎖のカニのタテバイ。

6:50 カニのタテバイ

50メートル程度の垂直の壁。落ちたら体が壊れてオシマイなのですが、実際に目の前に来ると特に落ちる気がしません。しっかりしたステップ(鉄棒)が付けられているため、油断をせずに手足に魂を込める感じでしっかり登れば高めのジャングルジムに毛が生えた程度といった印象です。逆にステップが付けられていないと登攀技術がない登山者にとっては終わっている感があります。こういうサポートがあまりなかった数十年前はさぞや壮絶な道程だったのだろうな、と思う。

高度感に慣れていないまま突入するとシンドイ思いをするかもしれませんが、それはこれまでのポイント全般にも言えるかもしれません。

後は稜線に這い上がると頂上は目と鼻の先

そして、ようやく・・・

7:45 剱岳登頂成功

これまで色々と楽しい思いもシンドイ思いも超えてきましたが、自分の山行において確実なマイルストンになったことだけは確かでしょう。

後立山や更に奥の北アルプス、南アルプス、八ヶ岳に加えて薄っすらと富士山も一望のスーパービュー


ここまで天気が良いと長居したくなるのですが、後ろから物凄い数の登山者がやってくるため、15分弱の滞在後、下山に取り掛かります。

そして一番キツかったのがこの下り。登るときは勢いとテンションと余裕のある体力でガシガシ行けるのですが、下りはそうはいかないわけです。

8:38 カニのヨコバイ

最も難所と個人的には思うカニのヨコバイ。
岩場に張られた鎖を手掛かりに、崖に完全に身を晒す感じでの一足目(右足から!)が肝という事前情報通り(違っていては非常に困る訳ですが)。少し緊張しましたがセルフビレーのお陰もあって臆することなく進むことが出来ました。

後はひたすら体力の求められるダウンアップダウンダウン…これがまた堪えるんだ。
一番しんどかったのは前剱のピークを過ぎた辺りの下りですかね。体力や緊張感が抜けつつあるタイミングでの非常に丁寧な処理が求められる下り。事故が多発するタイミングであるという前情報も納得せざるを得ません。

ですが、一服剱を過ぎるとようやく小屋が近くに見えてきます。

往路では暗くて見えなかったコバイケイソウの群生が綺麗でした

11:35 剣山荘

本日は水を少し多めの2リットル持って上がりましたが、ほぼピッタリでしたので、天候が曇っていたりした場合は1.5リットル程度が丁度良いと思われます。

12:15 剱澤小屋に到着

無事に剱澤小屋に到着してから喉に流し込んだ、このキンキンに冷えた極上のビールの味は一生忘れないと思う。最高。

こうして剱岳という憧れの一座を攻略することが出来たのでした。

・・・
全体的な印象としては、以前登った槍ヶ岳の核心部(穂先)が断続的に長く続く感じです。穂先の20分程度の登りに問題がなく、体力に自信が有れば剱岳の別山尾根は問題なく進めるのではないかと思います。逆に剱に登ってからだと槍があっさりし過ぎ、という感じになってしまう様に思えますので、個人的には槍→剱の順序がお勧め。

剱岳という日本アルペンのアイドルといって良い一座に対して、これまで自分の中では妙にハードルを上げ過ぎてしまっていた感はあったものの、”ベースとなる経験がしっかり積まれているのであれば”変に恐れることは無いのかもしれないな、と感じました。

但し小屋にて一緒の部屋になった数人の話を聴くと、意外にもハイキング登山よりもボルダリングや岩場登攀をメインにされている方が多かったです。今は見上げるしかない海外のセブンサミットなどを制覇される方というのは、登山技術に加えて、岩場登攀、雪上歩行、山地幕営等の複合技術を練り上げられている訳ですが、剱も百名山として一般的な山と謳われながら既に登山技術に加えて登攀技術の一部をかじった人が登る一座であったと。そういう事なんですね。


試練と憧れ

そして翌日の立山縦走に続きます・・・